その時、その人面の獣が怪しく唸って、頭を上げたのを眺めますと、夢現の暗の中にも、唇ばかりが生々しく赤かったので、思わず金切声をあげながら、その声でやっと我に返りましたが、総身はびっしょり冷汗で、胸さえまるで早鐘をつくように躍っていたとか申しました。
でございますから、北の方を始め、私どもまで心を痛めて、御屋形の門々に陰陽師の護符を貼りましたし、有験の法師たちを御召しになって、種々の御祈祷を御上げになりましたが、これも誠に遁れ難い定業ででもございましたろう。
ある日――それも雪もよいの、底冷がする日の事でございましたが、今出川の大納言様の御屋形から、御帰りになる御車の中で、急に大熱が御発しになり、御帰館遊ばした時分には、もうただ「あた、あた」と仰有るばかり、あまつさえ御身のうちは、一面に気味悪く紫立って、御褥の白綾も焦げるかと思う御気色になりました。