その時の悲しさ、恐ろしさ、勿体なさ――今になって考えましても、蔀に迷っている、護摩の煙と、右往左往に泣き惑っている女房たちの袴の紅とが、あの茫然とした験者や術師たちの姿と一しょに、ありありと眼に浮かんで、かいつまんだ御話を致すのさえ、涙が先に立って仕方がございません。
が、そう云う思い出の内でも、あの御年若な若殿様が、少しも取乱した御容子を御見せにならず、ただ、青ざめた御顔を曇らせながら、じっと大殿様の御枕元へ坐っていらしった事を考えると、なぜかまるで磨ぎすました焼刃の匀いでも嗅ぐような、身にしみて、ひやりとする、それでいてやはり頼もしい、妙な心もちが致すのでございます。
御親子の間がらでありながら、大殿様と若殿様との間くらい、御容子から御性質まで、うらうえなのも稀でございましょう。