今でもその時の事を考えますと、まるで磨ぎすました焼刃の匀いを嗅ぐような、身にしみてひやりとする、と同時にまた何となく頼もしい、妙な心もちが致した事は、先刻もう御耳に入れて置きました。
誠にその時の私どもには、心から御代替りがしたと云う気が、――それも御屋形の中ばかりでなく、一天下にさす日影が、急に南から北へふり変ったような、慌しい気が致したのでございます。
でございますから若殿様が、御家督を御取りになったその日の内から、御屋形の中へはどこからともなく、今までにない長閑な景色が、春風のように吹きこんで参りました。