と申しますのは、大殿様とは御違いになって、天が下の色ごのみなどと云う御渾名こそ、御受けになりましたが、誠に御無事な御生涯で、そのほかには何一つ、人口に膾炙するような御逸事と申すものも、なかったからでございます。
その御話のそもそもは、確か大殿様が御隠れになってから、五六年たった頃でございますが、丁度その時分若殿様は、前に申しあげました中御門の少納言様の御一人娘で、評判の美しい御姫様へ、茂々御文を書いていらっしゃいました。
ただ今でもあの頃の御熱心だった御噂が、私どもの口から洩れますと、若殿様はいつも晴々と御笑いになって、