まさかそうまで御姫様が、思いつめていらっしゃろうとは、夢にも思召さなかったのでございますから、鴉の左大弁様は悲しいとも、嬉しいともつかない御心もちで、しばらくはただ、茫然と御文を前にひろげたまま、溜息をついていらっしゃいました。
が、何はともあれ、御眼にかかって、今まで胸にひそめていた想のほども申し上げようと、こう思召したのでございましょう。
丁度五月雨の暮方でございましたが、童子を一人御伴に御つれになって、傘をかざしながら、ひそかに二条西洞院の御屋形まで参りますと、御門は堅く鎖してあって、いくら音なっても叩いても、開ける気色はございません。