さてはまた、福徳の大神に祟られた物狂いでも踊っているか、さもなければ迂闊な近江商人が、魚盗人に荷でも攫われたのだろうと、こう私は考えましたが、あまりその騒ぎが仰々しいので、何気なく後からそっと覗きこんで見ますと、思いもよらずその真中には、乞食のような姿をした沙門が、何か頻にしゃべりながら、見慣れぬ女菩薩の画像を掲げた旗竿を片手につき立てて、佇んでいるのでございました。
年の頃はかれこれ三十にも近うございましょうか、色の黒い、眼のつり上った、いかにも凄じい面がまえで、着ているものこそ、よれよれになった墨染の法衣でございますが、渦を巻いて肩の上まで垂れ下った髪の毛と申し、頸にかけた十文字の怪しげな黄金の護符と申し、元より世の常の法師ではございますまい。
それが、私の覗きました時は、流れ風に散る神泉苑の桜の葉を頭から浴びて、全く人間と云うよりも、あの智羅永寿の眷属が、鳶の翼を法衣の下に隠しているのではないかと思うほど、怪しい姿に見うけられました。