そこでお話は元へ戻りますが、その間に若殿様は、思いもよらない出来事から、予て御心を寄せていらしった中御門の御姫様と、親しい御語いをなさる事が御出来なさるように相成りました。
その思いもよらない事と申しますのは、もう花橘の匀と時鳥の声とが雨もよいの空を想わせる、ある夜の事でございましたが、その夜は珍しく月が出て、夜目にも、朧げには人の顔が見分けられるほどだったと申します。
若殿様はある女房の所へ御忍びになった御帰り途で、御供の人数も目立たないように、僅か一人か二人御召連れになったまま、その明るい月の中を車でゆっくりと御出でになりました。