が、何しろ時刻が遅いので、人っ子一人通らない往来には、遠田の蛙の声と、車の輪の音とが聞えるばかり、殊にあの寂しい美福門の外は、よく狐火の燃える所だけに、何となく鬼気が身に迫って、心無い牛の歩みさえ早くなるような気が致されます。
――そう思うと、急に向うの築土の陰で、怪しい咳の声がするや否や、きらきらと白刃を月に輝かせて、盗人と覚しい覆面の男が、左右から凡そ六七人、若殿様の車を目がけて、猛々しく襲いかかりました。
と同時に牛飼の童部を始め、御供の雑色たちは余りの事に、魂も消えるかと思ったのでございましょう。