そこでまた私の甥も、見え隠れにその跡をつけて、とうとう西洞院の御屋形まで参ったそうでございますが、時にあの摩利信乃法師の不思議な振舞が気になって、若殿様の御文の事さえ、はては忘れそうになったくらい、落着かない心もちに苦しめられたとか申して居りました。
しかしその御文は恙なく、御姫様の御手もとまでとどいたものと見えまして、珍しくも今度に限って早速御返事がございました。
これは私ども下々には、何とも確かな事は申し上げる訳に参りませんが、恐らくは御承知の通り御闊達な御姫様の事でございますから、平太夫からあの暗討ちの次第でも御聞きになって、若殿様の御気象の人に優れていらっしゃるのを、始めて御会得になったからででもございましょうか。