たとえばその沙門に化けた天狗が、この屋形の姫君に心を懸けて、ある夜ひそかに破風の空から、爪だらけの手をさしのべようも、全くない事じゃとは誰も云えぬ。
が、――」と仰有りながら、ほとんど色も御変りにならないばかり、恐ろしげに御寄りそいになった御姫様の袿の背を、やさしく御さすりになりながら、
「が、まだその摩利信乃法師とやらは、幸い、姫君の姿さえ垣間見た事もないであろう。
たとえばその沙門に化けた天狗が、この屋形の姫君に心を懸けて、ある夜ひそかに破風の空から、爪だらけの手をさしのべようも、全くない事じゃとは誰も云えぬ。
が、――」と仰有りながら、ほとんど色も御変りにならないばかり、恐ろしげに御寄りそいになった御姫様の袿の背を、やさしく御さすりになりながら、
「が、まだその摩利信乃法師とやらは、幸い、姫君の姿さえ垣間見た事もないであろう。