が、その人波の中を分けて、異様な風俗の沙門が一人、姿を現したと思いますと、看督長はたちまち弓をすてて、往来の遮をするどころか、そのままそこへひれ伏しながら、まるで帝の御出ましを御拝み申す時のように、礼を致したではございませんか。
外の騒動に気をとられて、一しきりざわめき立った御門の中が、急にひっそりと静まりますと、また「摩利信乃法師、摩利信乃法師」と云う囁き声が、丁度蘆の葉に渡る風のように、どこからともなく起ったのは、この時の事でございます。
摩利信乃法師は、今日も例の通り、墨染の法衣の肩へ長い髪を乱しながら、十文字の護符の黄金を胸のあたりに燦かせて、足さえ見るも寒そうな素跣足でございました。