と申しますのは何もあの男が、昼も蔀も下した部屋の中で、結燈台の火の下に、秘密の絵の具を合せたり、或は弟子たちを、水干やら狩衣やら、さま/″\に着飾らせて、その姿を、一人づゝ丁寧に写したり、――さう云ふ事ではございません。
それ位の変つた事なら、別にあの地獄変の屏風を描かなくとも、仕事にかゝつてゐる時とさへ申しますと、何時でもやり兼ねない男なのでございます。
いや、現に龍蓋寺の五趣生死の図を描きました時などは、当り前の人間なら、わざと眼を外らせて行くあの往来の屍骸の前へ、悠々と腰を下して、半ば腐れかかつた顔や手足を、髪の毛一すぢも違へずに、写して参つた事がございました。