勿論弟子はすぐに良秀に手をかけて、力のあらん限り揺り起しましたが、師匠は猶夢現に独り語を云ひつゞけて、容易に眼のさめる気色はございません。
そこで弟子は思ひ切つて、側にあつた筆洗の水を、ざぶりとあの男の顔へ浴びせかけました。
「待つてゐるから、この車へ乗つて来い――この車へ乗つて、奈落へ来い――」と云ふ語がそれと同時に、喉をしめられるやうな呻き声に変つたと思ひますと、やつと良秀は眼を開いて、針で刺されたよりも慌しく、矢庭にそこへ刎ね起きましたが、まだ夢の中の異類異形が、眶の後を去らないのでございませう。