彼は二品をおづおづ主人の枕元へ押し並べると、思ひ出したやうに又、口を早めて、専念に称名を唱へ始めた。
治郎兵衛の素朴な、山家育ちの心には、芭蕉にせよ、誰にせよ、ひとしく彼岸に往生するのなら、ひとしく又、弥陀の慈悲にすがるべき筈だと云ふ、堅い信念が根を張つてゐたからであらう。
一方又木節は、「水を」と云つた刹那の間、果して自分は医師として、万方を尽したらうかと云ふ、何時もの疑惑に遭遇したが、すぐに又自ら励ますやうな心もちになつて、隣にゐた其角の方をふりむきながら、無言の儘、ちよいと相図をした。
彼は二品をおづおづ主人の枕元へ押し並べると、思ひ出したやうに又、口を早めて、専念に称名を唱へ始めた。
治郎兵衛の素朴な、山家育ちの心には、芭蕉にせよ、誰にせよ、ひとしく彼岸に往生するのなら、ひとしく又、弥陀の慈悲にすがるべき筈だと云ふ、堅い信念が根を張つてゐたからであらう。
一方又木節は、「水を」と云つた刹那の間、果して自分は医師として、万方を尽したらうかと云ふ、何時もの疑惑に遭遇したが、すぐに又自ら励ますやうな心もちになつて、隣にゐた其角の方をふりむきながら、無言の儘、ちよいと相図をした。