或は又「生」の享楽家たる彼にとつて、そこに象徴された「死」の事実が、この上もなく呪ふ可き自然の威嚇だつたのであらうか。
――兎に角、垂死の芭蕉の顔に、云ひやうのない不快を感じた其角は、殆何の悲しみもなく、その紫がかつたうすい唇に、一刷毛の水を塗るや否や、顔をしかめて引き下つた。
尤もその引き下る時に、自責に似た一種の心もちが、刹那に彼の心をかすめもしたが、彼のさきに感じてゐた嫌悪の情は、さう云ふ道徳感に顧慮すべく、余り強烈だつたものらしい。
或は又「生」の享楽家たる彼にとつて、そこに象徴された「死」の事実が、この上もなく呪ふ可き自然の威嚇だつたのであらうか。
――兎に角、垂死の芭蕉の顔に、云ひやうのない不快を感じた其角は、殆何の悲しみもなく、その紫がかつたうすい唇に、一刷毛の水を塗るや否や、顔をしかめて引き下つた。
尤もその引き下る時に、自責に似た一種の心もちが、刹那に彼の心をかすめもしたが、彼のさきに感じてゐた嫌悪の情は、さう云ふ道徳感に顧慮すべく、余り強烈だつたものらしい。