是に於て彼悵然として兼平に云つて曰「首を敵の為に得らるゝこと、名将の恥なり、いくさやぶれて自刃するは猛将の法なりとこそ聞き及びぬ」と、兼平答へて曰「勇士は食せずして饑ゑず、創を被りて屈せず、軍将は難を遁れて勝を求め死を去つて恥を決す、兼平こゝにて敵を防ぎ候はむ、まづ越前の国府迄のがれ給へ」と、然れども多涙の彼は、兼平と別るゝに忍びざりき。
彼は彼が熱望せる功名よりも、更に深く彼の臣下を愛せし也。
而して行く事未幾ならず、東軍七千、喊声を上ぐること波の如く、乱箭を放ち鼙鼓を打つて、彼を追ふ益〻急也。