丁度其当時、その工場の事務室が改築中であったので、いつもなれば、厳重に戸締りの出来る特別の部屋で行われる筈の賃銀計算の仕事が、其日は、仮に支配人室の隣の応接間で行われたのであるが、昼食の休憩時間に、どうした物の間違いか、其応接間が空になって了ったのである。
事務員達は、お互に誰か残って呉れるだろうという様な考えで、一人残らず食堂へ行って了って、後には支那鞄に充満した札束が、ドアには鍵もかからないその部屋に、約半時間程も、抛り出されてあったのだ。
その隙に、何者かが忍入って、大金を持去ったものに相違ない。