私共も、そうした気候の恩恵に浴して、明日はどうなることか、月末の間代の支払はどこから捻出するか、という様な先の心配を除いては、先ず一寸いきをついたのである。
そして、暫く遠慮して居った銭湯へも行けば、床屋へも行く、飯屋ではいつもの味噌汁と香の物の代りに、さしみで一合かなんかを奮発するといった鹽梅であった。
ある日のこと、いい心持に煠って、銭湯から帰って来た私が、傷だらけの、毀れかかった一閑張の机の前に、ドッカと坐った時、一人残っていた松村武が、妙な、一種の興奮した様な顔付を以て、私にこんなことを聞いたのである。