尤も彼には一人の妹があって、東京のある貴族へ嫁入りしているのですし、国の方にも、そうした大家のことであって見れば、定めし沢山の親族がいることでしょうが、それらの人が亡き源三郎と瓜二つの人見廣介という男のあることを知っている筈もなく、どうかして噂位聞いていたところで、まさかこれ程似ていようとは想像しないでありましょうし、その上、その男が源三郎の替玉となって現れるなどとは、夢にも考える道理がありません。
それに、彼は生れつき、不思議とお芝居のうまい男でもあったのです。
たった一人恐しいのは、細い所まで源三郎の癖を知っているに相違ない、当人の細君ですが、これとても、用心さえしていれば、取り分け夫婦の語らいという様なことを、なるべく避けていたならば、恐らく気づくことはないでしょう。