後になって思い出すと、当時の心持は、まるで夢遊病みたいなもので、さて実行に取りかかっても、妙に空虚な感じで、それ程の大事が、何だか暢気な物見遊山にでも出掛ける様な、併し心のどこかの隅には、今こうしているのは実は夢であって、夢のあちら側にもう一つの本当の世界が待っているのだという意識が、蟠っている様な、異様な気持が続いていたのでした。
先に云った通り彼の計画は、二つの重要な部分に分れていました。
その第一は彼自身を、即ち人見廣介という人間を、この世からなくして了うことですが、それに着手するに先だって、一度菰田の邸のあるT市に急行して、果して菰田が土葬にされたかどうか、その墓地へうまく忍び込むことが出来るかどうか、菰田の若い夫人はどの様な人物であるか、召使共の気質はどんな風か、それらの点を一応検べて置く必要がありました。