彼はその翌日、下宿屋の帳場へは、思う仔細があって、一時宿を引払って旅に出る、行く先とては定まらぬ、謂わば放浪の旅だけれど、最初は伊豆半島の南の方へ志す積りだと告げ、小さな行李一つを携えて出発しました。
そして、途中で、必要の品物を買い、人通りのない道ばたで、今云った変装を終ると、まっすぐに東京駅へかけつけ、行李は一時預けにして、T市の二つ三つ先の駅までの切符を買うと、彼は三等車の人ごみの中へともぐり込むのでありました。
T市に到着した彼は、それから足かけ二日、正しく云えば満一昼夜の間、彼の独得の方法によって、実に機敏に歩き廻り聞き廻って、結局目的を果すことが出来ました。