切符は二等、行先は下田港、行李をかついで、暗い桟橋を駈け、巖乗な板の歩みを渡って、ハッチを入るか入らぬに、ボーッと出帆の汽笛でした。
彼の目的に取って好都合だったことには、十畳敷き程の船尾の二等室には、たった二人の先客があったばかりで、しかもそれが二人共田舎者らしく、セルの着物にセルの羽織という出でたち、顔も巖乗らしく日に焼けて、その代りには頭の働きは一向鈍感相な中年の男達でありました。
人見廣介は黙って船室に入ると、先客達からずっと離れた、隅っこの方に席を取って、さて一寐入りという恰好で、備えつけの毛布の上に横わるのでした。