この上に尚、そのズルズルに腐った死体を穴から取り出し、取り出す丈けではなくて、それを処分する為に、更に一層恐しい、大仕事をやりとげなければならぬと思うと、彼は自分の計画が無謀極まるものであったことを、今更ながらつくづくと感じないではいられませんでした。
前の人見廣介が、仮令巨万の富に目がくれたとは云え、あの数々の激情を耐え忍ぶことが出来たのは、恐らく、彼も亦凡ての犯罪人と同じ様に、一種の精神病者であって、脳髄のどこかに、故障があり、ある場合、ある事柄については、神経が麻痺して了ったものに相違ありません。
犯罪の恐怖がある水準を超えると、丁度耳に栓をした時の様に、ツーンとあらゆる物音が聞えなくなって、謂わば良心が聾になって了って、その代りには、悪に関する理智が、とぎすました剃刀の様に、異常に鋭くなり、まるで人間業ではなく、精密なる機械仕掛でもあるかと思われる程、どの様な微細な点も見逃すことなく、水の如く冷静に、沈着に、思うままを行うことが出来るのでありました。