犯罪の恐怖がある水準を超えると、丁度耳に栓をした時の様に、ツーンとあらゆる物音が聞えなくなって、謂わば良心が聾になって了って、その代りには、悪に関する理智が、とぎすました剃刀の様に、異常に鋭くなり、まるで人間業ではなく、精密なる機械仕掛でもあるかと思われる程、どの様な微細な点も見逃すことなく、水の如く冷静に、沈着に、思うままを行うことが出来るのでありました。
彼が今、菰田源三郎の腐りかかった死体に触れた刹那、その恐怖が極点に達すると、都合よくも、又この不感状態が彼を襲ったのでした。
彼はもう何の躊躇する所もなく、機械人形の様に無神経に、微塵の手抜りもない正確さで、次々と彼の計画を実行して行きました。