それから、彼が菰田家の奥座敷へ運び込まれるまでのいきさつは、くだくだしくなりますから、省くことにしますが、町からは菰田家の総支配人其他の召使、医者などをのせた自動車が駈けつけ、菩提寺からは和尚や寺男が、警察からは、署長を始め二三の警官が、その他急を聞いた菰田家縁故の人々は、まるで火事見舞かなんぞの様に、次から次へと、この町はずれの森を目がけて集まって来る始末でした、附近一帯は、戦争の騒ぎで、これを見ても、菰田家の名望、勢力の偉大なことが、十分に察せられるのでありました。
彼は、それらの人々に擁せられて、今は彼自身の家であるところの、菰田邸につれて行かれる間、それから、そこの主人の居間の、彼が嘗て見たこともない様な立派な夜具の中に横ってからも、最初の計画を確く守って、唖者の如く口をつぐんだまま、遂に一言も物を云おうとはしませんでした。
彼のこの無言の行は、それから約一週間というもの、執拗に続けられました。