廣介は、源三郎としての彼女との初対面の光景を、其後長い間忘れることが出来ませんでした。
経帷子姿の彼をのせた自動車が、菰田家の門前につくと、千代子は誰かに止められてでもいたのでしょう、門から外へはよう出ずに、余りの椿事に、寧ろ顛倒して了って、歯の根も合わずワクワクしながら、門内の長い敷石道を、やっぱり青くなった小間使達と一緒に、ウロウロと歩き廻っていたのですが、自動車の上の廣介を一目見ると、何故か一瞬間ハッと驚愕の表情を示し、(彼はそれを見て、どの様に胆を冷したことでしょう)それから、子供の様な泣顔になって、自動車が玄関につく迄の間を、無様な恰好で、車の扉によりかかって、引ずられる様に走ったのです。
そして、彼の身体が、玄関に担ぎ卸されるのを待兼ねて、その上にすがりつき、長い間、親戚の人達が見兼ねて、彼女を彼の身体から引離したまで、身動きもせずに泣いていました。