その日は、沖の島の工事が、殆ど完成して、土木、造園の方の仕事が一段落をつげたというので、重だった関係者が菰田邸に集り、一寸した酒宴を催したのですが、廣介は、愈々彼の望みを達する日が近づいたというので、有頂天にはしゃぎ廻り、若い技術者達もそれに調子を合せて騒いだものですから、お開きになったのはもう十二時を過ぎていました。
町の芸者や半玉なども数名座に侍ったのですが、彼女等もそれぞれ引取って了い、客は菰田邸に泊るものもあれば、それから又どこかへ姿を隠すものもあり、座敷は引汐の跡の様で、杯盤の乱れた中に一人酔いつぶれていたのが廣介、そして、それを介抱したのが彼の妻の千代子だったのです。
その翌朝、意外にも、七時頃にもう起き出でた廣介は、ある甘美なる追憶と、併し名状すべからざる悔恨とに、胸をとどろかせながら、幾度も躊躇したのち、跫音を盗む様にして千代子の居間へ入ったのでした。