「まあ、あなたはさっきの方ですわね」
併し、声をかけても、人魚はつつましやかに笑うばかりで、少しも言葉を返そうとはせず、ただやさしく会釈しながら、静に泳いでいるのです。
そして、驚いたことには、人魚は決して彼女一人に止まらず、いつの間にか、一人二人と、同じ様な若い裸女達の数がふえ、見る見る一団の人魚群を為して、或は潜り、或は跳ね上り、或は戯れ合い、二羽の白鳥に雁行するかと見れば、抜手を切って泳ぎ越し、遙か彼方に浮上って、手まねきをして見せたり、闇色の絶壁と、漆の様な水を背景とし、そこに一糸を纒わぬ艶かしき影を躍らせて嬉戯する様は、ギリシャの昔語を画題とした名画でも見る様です。