その森の中で、先に立って歩いていた明智が、ふと足を止めて、向うの暗闇を覗くようにしたので、少年もギョット立止って、怖々すかして見ると、ボンヤリと、妙な所に、妙なものが突立っていることが分った。
その辺は一体、歌舞伎劇になぞらえた菊人形の舞台なのに何を間違えたのか、防寒外套に身を包み、毛皮裏の頭巾をスッポリと冠った、陸軍士官が、杉の大木に凭れてヒョイト立っていたのだ。
「変だな」と思いながらも、併し、まさかそれが、生きた人間とは知らぬので、何気なく通り過ぎ様とすると、その士官が、機械仕掛けの様にツート動き出して、明智の行手に立ちふさがり、アッと思う間に、彼の手を握ったかと見ると、いきなり耳に口を寄せて、何事か囁いた。