可愛い、たよりない茂少年を抱きしめて、一刻も手離すまいとする心遣いだけで精一杯だった。
真暗な、よみじの様な、井戸の底の数時間、そこを出たかと思うと、我家の廊下を、まるで泥棒でもある様に、忍び忍んで、物もあろうに、たった今まで、我手で殺した斎藤老人の、死骸が横たわっていた棺の中へ、親子で身をひそめなければならないとは。
頑丈な棺ではあったけれど、三谷が釘うつ時に、外からは見えぬ様に、丸めた紙をくさびにして、細い隙間を作っておいてくれたので、空気の欠乏を気遣うことはなかったが、それにしても、狭い箱の中で、音も立てず、身動きも出来ず、出棺までの長い時間、じっとしていなければならぬとは、アア既に、彼女の罪を償う為に、地獄の責苦が始まったのではなかろうか。