顔のくずれた溺死体は、彼が唇のない男と化けて、悪事をたくましゅうする為に、別人の死骸を替玉に使った訳ではなくて、失恋自殺をとげた上、あらぬ汚名を着せられた、憐れむべき人物であることが分った。
しかし、これで岡田のえん罪は明かになったが、そうなると、一方において、また新しい疑問が生じて来る。
「毒薬決闘を申出たり、倭文子さんの写真に筆を加えて、恐ろしい死体写真を置みやげにしたり、また例のアトリエに死骸の石膏像を作ったりした岡田道彦が、まるで、世間知らずのウブな青年のように、あの位のことで、自殺してしまった心理の飛躍が、非常に不自然に見えたのです。