大人しい妙子は、その云いつけを守って、即日ホテルを出発したが、明智に別れを告げる時には、彼女の方でも、気のせいか、ひどく名残り惜しげに見えた。
妙子が去ってからも、明智は以前の様に、子供達をボートにのせて、湖水を漕ぎ廻るのを日課にしていたが、さも快活に装いながら、眉宇に一抹の曇りを隠すことは出来なかった。
妙子の掴めば消えてしまい相な、しなやかな身躯、ほほえむとニッと白い八重歯の見える、夢の様に美しい顔、胸の擽られる様な甘い声音、それらの一つ一つが、時がたてばたつ程、まざまざと記憶に浮んで、明智は二十歳の青年の様に、悩ましい日を送らねばならなかった。