だが、手型にせよ、暗中の大入道にせよ、凡て曖昧模糊たる怪談ばなしか或は夢物語以上の確実性を持ったものではなく、実際的な当局者としては、そんな外部からの怪物を信じる前に、凡ての戸締りが厳重に出来ていた点に基き、先ず一応邸内の召使達に疑いの目を向けたのは、誠に無理もない事であった。
で、書生、婆や、二人の女中、自動車運転手、助手の六人が再三厳重な質問を受けて各自の荷物や行李の中味まで検査されたが、一人として言動不審のものもなく、又所持品の中から問題のダイヤモンドも現われて来ず、結局うやむやに終ってしまった。
この犯罪は単なる物取りの仕業としては、殺害方法の残虐なこと、死体の首の紛失していることなど、腑に落ちぬ点がある。