お話変って、旗本屋敷の地下室に、この恐ろしい地獄の光景が展開されていた、丁度その時、我々の素人探偵明智小五郎は、近頃借り受けた、お茶の水の「開化アパート」の新しい住居で、物思いに耽っていた。
明るい快活な明智小五郎ではあったが、彼とても、探偵事件がうまく運ばぬ様な時には、憂欝に沈み込むこともあるのだ。
借り受けているのは、表に面した二階の三室で、客間、書斎、寝室と分れているのだが、彼は今その書斎の、大きな安楽椅子に、グッタリと身を沈めて、彼の好きな『フィガロ』という珍らしい紙巻煙草を、しきりと灰にしていた。