聞いて見ると、文代は隅田川の川口に碇泊している、例の怪汽艇の一室にとじこめられていたのだが、次の室で賊の部下達が話しているのを聞いて、小石川の旗本屋敷の陰謀を知り(彼女は前章に記した賊の悪企みを、手短かに語った)非常な苦心をして汽艇を抜け出し、タクシーを飛ばして明智の住いへかけつけたというのだ。
明智が「開化アパート」に移ったことは、とっくに賊の方に知れていて、自然文代の耳にもは入ったのだ。
又、先日来の大捜索に、この怪汽艇がどうして其筋の目をのがれたかと云えば、外部をすっかり塗り変えて、真面目な貨物船と見せかけていた上、多くは港外の海上をあちこちして、同じ場所に半日とは碇泊しなかったからである。