無論論文の材料とする考もなく、帰朝の後教授上の便に供するがためにもあらず、ただ漫然と出来得る限り多くの頁を飜へし去りたるに過ぎず。
事実をいへば余は英文学卒業の学士たるの故を以て選抜の上留学を命ぜらるるほど、斯道に精通せるものにあらず。
卒業の後東西に徂徠して、日に中央の文壇に遠ざかれるのみならず、一身一家の事情のため、擅まに読書に耽けるの機会なかりしが故、有名にして人口に膾炙せる典籍も大方は名のみ聞きて、眼を通さざるもの十中六、七を占めたるを平常遺憾に思ひたれば、この機を利用して一冊も余計に読み終らんとの目的以外には何らの方針も立つる能はざりしなり。