ある日この細君が例のごとく笊か何かを提げて、西洋の豆腐でも買うつもりで表へ出ると、ふと先年金剛石を拝借した婦人に出逢いました。
先方は立派な奥様で、当方は年期の明けた模範下女よろしくと云う有様だから、挨拶をするのも、ちょっと面はゆげに見えたんでしょうが、思い切って、おやまあ御珍らしい事とか何とか話かけて見ると案のごとく、先方では、もうとくの昔に忘れています。
下女に近付はないはずだがと云う風に構えていたところを、しょげ返りもせず、実はこれこれで、あなたの金剛石を弁償するため、こんな無理をして、その無理が祟って、今でもこの通りだと、逐一を述べ立てると先方の女は笑いながら、あの金剛石は練物ですよと云ったそうです。