召使の部屋と、博士夫妻の部屋とは可也隔っていることや、当夜は召使共は、それは二人の女であったが、熟睡していて朝の騒ぎで始めて目を覚し、夜中の出来事は少しも知らなかったということや、当の博士が、当夜めずらしく在宿して居ったということや、その上、靴跡の証拠を裏書きする様な、博士の家庭の事情なるものがあるんだ。
その事情というのは、富田博士は、君も知っているだろうが、故富田老博士の女婿なのだ。
つまり夫人は家つきの我儘娘で痼疾の肺結核はあり、御面相は余り振わず、おまけに強度のヒステリーと来ているんだ。