大切なものを持出したり、子供に怪我をさせまいとしたり、そういう場合でなければ経験の出来ない、一種異様な、追いつめられた様な、せかせかした気持の為に、可成の時間を殆ど一瞬の様に感じたせいもあろうけれど、あの、とほうもなく大きな大蛇の舌ででもある様な「火焔」という生物が、人間の住家を嘗め爛らして了う速さというものは、ほんとうにびっくりする程であった。
北川氏は第一に幼児――誕生を過ぎてまだ間もなかった幼児を抱いて、少し離れた友人の家へかけつけた。
泣叫ぶ子供は、友人の細君に託し、友人にも手伝って貰って、出来る丈けの品物を持出そうと、彼は火事場へ取って返した。