さて、二人の男が料理屋へ入ったのを見て、私はどうしたかといいますと、これが小説だと、その料理屋の女中にいくらか握らせて、二人の隣の部屋へ案内してもらい、ふすまに耳をあてて話し声でも聞く処なんでしょうが、滑けいですね、私はその時料理屋へ上る丈けの持合せがなかったのですよ。
財布の中には汽車の往復切符の半分と、たしか一円足らずの金しか入っていなかったのです。
そうかといって、あまりに不思議なことで、警察へ届けるという決断もつかず、またそんなことをしている内に、逃げられるという心配もあったものですから、御苦労様にも、私は料理屋の前にじっと張番をしていました。