何分その下宿屋は、夜更けに帰って来る客の為に、いつだって入口の戸に鍵をかけたことがないのですから、賊の忍入るにはお誂向きなんですが、その代りによくしたもので、殺された老主人が馬鹿に眼敏い男なので、滅多なこともなかろうと、皆安心していた訳なんです。
現場には別段これという手掛りも発見されなかったらしいのですが、唯一つ、老主人の枕下に一枚の汚れたハンカチが落ちていて、それを其筋の役人が持って行ったという噂なんです。
暫くすると、私は自分の部屋の押入の前に立って、それを開けようか開けまいかと、手を出したり引込めたり、うろたえていました。