丁度そこへ、仮想の男になり済したTが、ヒョッコリとやって来た、最初は、細君、その男をTだといって聞かなんだが、Tの友人が訪ねて来ても、まるで話が合わなかったり、(それはTが予め頼んだこの芝居の脇役なのだ)仮装の男の身許が明かになったりしたので(これもTが拵えて置いたのだ)つい、彼等が全く別人であることを信ずる様になった。
これが、何かそうする理由でもあったのなら、いくら何でもだまされはしないのだろうが、T自身の心持を外にしては、まるで理由というものがないのだ。
まさか、こんな馬鹿馬鹿しいお芝居が演じられようとは、誰にしたって、思いも寄らないからね。