波越警部は部下を引連れて庭に廻り、一足の足駄の跡をたよりに、庭の奥、塀の外まで隈なく検べたが、何の得る所もなかった。
足駄の跡は窓から五間程で固い地面に消えていたので、賊の逃走した方角を定めることも出来ぬのだ。
流石の侯爵も、一人娘の非業の最期に気も顛動して、大切なお客さまルージェール大使一行のことも忘れ、前後の処置も考えず、ただ美しい姫のなきがらに取り縋って、涙にくれていたが、波越警部達が空しき捜索を切上げて引返して来た時、やっと気を取直して、こういう折は、老練な三好執事の智恵を借りる外はないと、召使達の間にその姿を探したが、どうしたものか老人の影さえ見えぬ。