今度の事件でも、眼鏡サック、靴足袋、偽の足跡、机上に投り出してあった日記帳、池の底の金製品と、ごく大きな要素を上げただけでも十位はある、その各要素について犯人の一挙手一投足を綿密にたどって行くならば、そこに幾百幾千の特殊なる小行動が存在する訳です。
そこで、探偵が活動写真フイルムの一齣一齣を検査する様に、その小さな行動の一々を推理することが出来たならば、どれ程頭脳明晰で用意周到な犯人でも、到底処罰を免れることは出来ない筈です。
併しそこまでの推理は残念ながら人間力では不可能ですから、せめて我々は、どんな微細なつまらない点にも、絶えず注意を払って、犯罪フイルムのある重要な一齣にぶつかることを僥倖する外はありません。