というのは、屡々述べた様に、彼は其の時分までも、例の尾行や立聞きを続けていたので、彼等(池内と芙蓉と)が次に出会う場所も時間も、知れていたし、当時芝居の切れ目だったので、芙蓉は自宅から約束の場所へ出かけるのだが、そんな時に限って、彼女は態と帳場の車を避け、極まった様に、近くのある大通りの角まで歩いて、そこで通りすがりのタクシーを拾うことさえ、彼にはすっかり分っていた。
実を云うと、それが分っていたからこそ、彼はあの変てこな、自動車のトリックを思いついた程であったのだから。
十一月のある一日、その日は朝から清々しく晴れ渡って、高台の窓からは、富士山の頭が、ハッキリ眺められる様な日和であったが、夜に入っても、肌寒いそよ風が渡って、空には梨地の星が、異様に鮮かにきらめいていた。