そうして、この異様な男女の一と組は、しばらくだまったまま対座していたが、夫人はふとそこのデスクの上においてあったトランプの札に気づいて、睡気ざましに一と勝負と提議し、明智も同意して、賊を待つまの、奇妙なトランプ遊戯がはじまった。
恐ろしいからこそ待ち遠しい一時間が、トランプのおかげで、つい知らぬまにたって行った。
そのあいだも、明智は寝室との境の開け放ったドアの向こうに、抜け目なく眼をくばりつづけていたことはいうまでもないが、寝室の窓(もし賊が外部から侵入するとすれば、この窓が残されたただ一つの通路であった)にはなんらの異状も起こらなかった。