風よけの帆布を張りめぐらした、菓子や果物や絵葉書などの売店に、店番の夫婦者が寒そうに坐っているほかには全く人影はなく、何かこう、人界をはなれて、天上の無人の境へ来たような、物さびしい感じであった。
欄干にもたれて、下界をのぞくと、ここのさびしさとは打って変った雑沓の、数千匹の蟻の行列のような人通りが、足もとにくすぐったく眺められた。
そうして寒風に吹きさらされながら、しばらく待っていると、やがて次のエレベーターが到着して、ガラガラと鉄の扉のひらく音とともに、一人の奥様らしいよそおいの、金縁の目がねをかけた和服の婦人が、展望台に現われ、ニコニコ笑いながら、岩瀬氏の方へ近づいて来た。