もう一つの作品は「アベ・グランジの惨劇」で犯罪現場に三つのコップが残っていて、犯罪の当時三人の人間がそこで酒を呑んだように見せかけてあるが、実は二人しかいなかったのだということを、ホームズが推理する。
ところが、この推理にはコップという絶好の道具が出ているにもかかわらず、指紋は全く無視され、ホームズは指紋鑑識について何も知らないように描かれている。
私は右の二つの作が雑誌に発表された年を知らないが、いずれにしても、一九〇五年に出版された本には、まだ指紋の知識が十分利用されていなかったことになる。