「抜けウイルソン」は、近所の人々の指紋を片っぱしからガラス板に蒐集して楽しんでいるウイルソンという風変りの人物を描いたもので、そのころ世間では指紋に個人鑑別の力があるなどと少しも知らず、物好きな変り者として嘲笑されていたが、それが計らずも、ある犯罪事件の犯人を確定する手掛りになるという話で、指紋鑑識などほとんど考えられていなかった時代の、創意的着想である。
しかもこれは明瞭に探偵小説の形を備えているのだから、探偵小説史はマーク・トウェーンのこの作品を忘れてはならないと思う。
ところが、東京で出版された「幻燈」は、この「抜けウイルソン」よりもまた二年早いのであるが、それと並んで、指紋学そのものも、その最初の主張が、日本在住の英人によってなされたことは面白い因縁である。