つまり現実をモデルとした殺人事件のスリルというものが、あの作の一半の要素となっていたのである。
ダグラス・トムスンの「探偵作家論」には「スリラア」という章があって、そこで彼は例の調子でおびただしいスリルの文学を引用しているのだが、その中にはホーマーの「オディッセイ」も、シェークスピアの「マクベス」も、ポーの「陥穽と振子」も、ディケンズの「エドウィン・ドルード」も、コリンズの「月長石」も、ガボリオやボアゴベイの諸作も、それぞれの意味でスリラアとしてあげられている。
ウォレース、オップンハイム、ル・キウ、サックス・ローマーなどがスリラアであるというまでもなく、中にもいちじるしいスリル探偵小説の作家はウォレースとメースンとフレッチアだと、トムスンは考えるのである。